デッサンはもっと黒くしないとだめですか?

突然ですが私はデッサン教室を開講しています。
といっても、美大受験用のみっちりした内容ではありません。
いわゆるカルチャースクールです。

少人数制で小規模、モチーフも統一で開講時間も短い教室です。
週に1回、2時間だけを使って皆で共通のモチーフを課題にし、その2時間の間に講評まで行ってしまいます。

受講生は殆どがデッサン未経験者の大人たちです。
独学でやってきた絵の上達に、暮らしのリフレッシュに、いつかイラストが描けるようになりたい、などなど目的や目標も様々。

そんな教室のある日、一人の受講生にこんなことを質問されました。

「デッサンって、もっと黒く塗らないとだめですか?」

指導をしながら、空席があれば私もデッサンをします。
講評時に並べる作品が一枚でも多い方が受講生の成長に繋がると思ってのことです。

その受講生は、私の途中経過のデッサンを見て、思いの外描き込み量が多く驚いたのだそうです。

結論から述べると、黒く塗る必要はありません。

モチーフを観察していると、形だけでなく沢山の種類の光と影が見えてきます。
その光と影を、可能な限り画面内に描き込もうとすると、必然的に画用紙は白く無くなっていきます。

ホワイトを使わない、鉛筆と練りゴム、消ゴムだけのデッサンの場合、一番明るい部分を一番明るく見せるには、他の場所を暗くしてやらないといけない。

 

その日は透明なガラスの瓶の中に、水を入れた状態でデッサンをしていました。
ガラスなら、強い光はひとつだけでなくあちこちにある場合が多いです。
この中の一番明るいものがいわゆるハイライトで、それ以外の光は、強い光ではあるけどハイライトほどではない。
つまり、強い光の中でも差をつける必要が出てきます。

そうやって光にワントーン重ねたとき、ハーフトーンで描いていた部分と似たような色味になっていては困るので、ハーフトーンももう一段重ねます。

鉛筆は、重ねれば重ねるほど暗くなっていきます。
明るい部分を明るく見せる。
隣接する影同士の差はこのくらいかな?

そうこう調整しているうちに、最も暗い部分が一層暗くなっていきます。
一番暗い色が10のデッサンと、50のデッサンでは、中間で表現できるグレートーンの豊かさに大きな差が出ます。

つまり、ただ黒く塗るのが正解なのではなく、色味の幅をもたせるために暗くせざるを得ないのです。

沢山の光と影をできるだけ描き込むということが理解できれば、単に黒くするということとは根本的に違うことがわかってきます。

表現したい部分を表現するための適切な濃さ。
これも人それぞれですので、経験と観察を重ねて掴んでゆく他に道はありません。

 

生徒作品


f:id:aniotainakagurashi:20170519230458j:image


f:id:aniotainakagurashi:20170519230521j:image


f:id:aniotainakagurashi:20170519230536j:image

 
f:id:aniotainakagurashi:20170519230548j:image